【自作キーボード】オリジナルキーボードを設計してわかったこと

「自作キーボード」には色々ありますが、これまでの私は自作といってもハンダづけレベル。今回はもう一歩踏み込み「自分好みのキーボードを設計する」段階にチャレンジしてみましたので、その顛末をまとめてみたいと思います。

手引書を使います

発端は、2018年秋の「技術書展」で購入した「自作キーボード設計入門」(以下テキスト)を手にしたこと。あれから半年以上が過ぎ、ようやく自分で設計した基板を手にすることができました。この場を借りて作者に感謝したいと思います。(電子版が手に入るようです)

キーボードの仕様

初めてのチャレンジなので、シンプルなモノを目指します。大まかには、

・30キーの格子状
・Pro Micro とキースイッチをソケット化

Gherkin に海外から個人輸入した100個で5000円以上する(30キーで60個必要) Holtite Socket ではなく、より安価な Kailh 製ソケット(10個で150円)を Gherkin に使いたいと考えたのがきっかけです。

残念ながら Gherkin は KiCad データが公開されていないため一からの設計。何一つ知らない私は、このテキストがなかったら間違いなくここまでたどり着くことはできなかったでしょう。

設計の大まかな流れ

実際の作業は、

・基本設計を決める
・回路図を作る
・パーツを割り当てる
・基板データを作成する
・完成データを書き出す
・発注する

この6つ。実は最初の基本設計と最後の発注以外は全て設計ソフトの「KiCad(無料)」上で行いますので、このソフトに習熟することが必要でした。

私は全くの初心者。トライ&エラーを繰り返すこと約半年。振り返ってみれば、一つが完成するまでの工程一つ一つを「なるほど」と納得しながらの作業にはたくさんの時間と、忍耐が必要でした。

設計開始

これは初期画面。

すべての始まりは、回路図を作るところから。パーツは Pro Micro / ダイオード / スイッチの3種とシンプルで、それほど難しくはありませんでした。完了したら必ずエラーチェックをし、問題がなければ先に進みます。この辺の細かな事柄はテキストを見ながらやって行きます。

回路図が出来上がったら、基板データを起こします。上は完成図ですが、全てのパーツがごちゃっと一つになっている状態から、一つ一つを配置していくわけです。

配置が終わったら、ダイオード(写真上の長方形)とキースイッチ(白い正方形)を順番に繋いで行きます。作業は、結ぶべき部分に細いガイド線があらかじめ繋がっていますので、それと同じように茶色(おもて面)と緑色(裏面)の線を引いてパーツを繋いで行きます。

終わったら「てんとう虫アイコン」をクリックしその都度エラーがないかをチェック。「DRCの開始」をクリックするとプログラムの自動診断が始まり、下のウインドウに問題箇所/未配線部分の指摘が出てきます。これをゼロにするまで続ける地道な作業を300回ほど繰り返し、ガイド線を一つ一つ潰して行きます。わからないことが出てきたら必ずテキストに戻ると、ヒントが見つかります。

基板を発注

配線を引き終わったらガーバーデータ(発注用データ)を出力。

発注は、jlcpcbへ。約1週間ほどで中国から基板が到着。

中身を確認。今回は白基板で、オマケがついていました。

ダイオードなどを実装

今回は完全自作なので、名前入り。おもて面にSMD ダイオードと、

Pro Micro 用ソケット。今回は表向きなので、高さがないテープタイプのもの(遊舎工房)を始めて使います。

裏面に回って、キースイッチ用ソケット(遊舎工房)をハンダづけして行きます。

これでハンダづけは完成。右上の茶色いテープはピンセットでつまんで取っておきます。

ソケット化した Pro Micro をはめ、

キースイッチをはめて完成です。Pro Micro には同じタイプ(3X10)の Gherkin 用 qmk ファイルをコピーしておきました。

ソフトウエアの調整

ケースが届くのを待っている状態の、全ソケット化された 3×10。実は見た目はいいのですが、キーが全く反応しない! これには焦りました。原因を片っ端から調べた結果、基板そのものとパーツの実装には明らかな問題を見つけることができず、最後に残ったのがコピーしたプログラム。ここに原因があると思い、調べ始めました。

qmk firmware のフォルダには、上記のような設定ファイルが入っています。

info.json を開き、Keyboard_name 以下を確認。

gherkin.c/.h の両オリジナルファイル名を変更。特に C ファイルにはキーレイアウトの指定がありますので、ここも変更。

config.h を見ると、 Pro Micro のピン設定(key_matrixs_pins)を書き換える行があることを発見。ここが設計図どおりに設定されていませんでした。今思えば、ただ Gherkin のqmk ファームウエアをコピーしただけで動くわけはありませんよね。最初に設計した時の Pro Micro のピンアサインを書き込むことが大事だということに気付くまで数時間・・・

もう一度 KiCad に戻り row と col データが流れてくるピンの名前を確認。その通りに config.h を書き変えます。電子回路の教育を受けていない者がこういった素人の背伸びをしているので、トライ&エラーの中から正解にたどり着く日々の繰り返し。でもこれで問題をすべて潰すことができて、ようやく完成です。

ケースを作成

最後にプレート(ケース)を作ります。正確な外形データは KiCad から取ります。 ファイルを開き、EdgeCuts など画面を見ながら外形を描いたレイヤーのみを選択し、一つのファイルにまとめるオプションを選択して SVG として書き出します。

これをiPadのドロー系ソフト(Graphic)で開き、

この上にレイヤーを重ねて順番に必要な形を描いて行きます。

念のためトレーシング・ペーパーにプリントして、サイズや細かな部分が合っているかどうか基板を下に当てて最終確認。

いつものように Emerge+ さんでアクリルをレーザーカットしてもらいます。

今回も基板と同じサイズ。ネジが好きではないので、アクリル接着剤と両面テープをの両方を使って組み立てて行きます。

組み上げると、上下のプレートは3ミリでいいのですが、スペーサーとして挟み込んでいるパーツの厚さは2ミリであることがわかり、これは次回に生かします。

KiCad からデータを起こしているので、Pro Micro の切り欠きなど細かい所までぴったりサイズで気持ちが良いですね。

いくらかかったのか?

好きなように作っているのでコストがいくらかかっているかというのを気にするのもアレですが、いい機会なのでまとめてみます。

【基板製作】
Merchandise Total:¥1016.89
Shipping Charge:¥1356.58
合計 ¥2373.47

【電子部品】
ダイオード 30個/Pro Micro 1個

【アクリルケース製作】
アクリルガラスエッジ 3mm A4サイズ : ¥972
レーザー加工 A4サイズ : ¥1,620
送料:¥300(ヤマトネコポス)

【設計ソフトウエア】 無料

【キースイッチ】 30個

【キーキャップ】 30個

【USBケーブル】 1本

基板・ケース・電子部品を合わせると約6000円。これにキースイッチ(遊舎工房でGateron は30個1350円)とキーキャップ(ピンキリですが Talp Keyboard だと安価なものが手に入る)なので、材料一式で1万円ほどでしょうか。これに工具一式が加わります。